留学体験記
手塚 記庸(平成22年度D3)
留学先:タンペレ工科大学、フィンランド・タンペレ市
教授名:Helge Lemmetyinen, Nikolai V. Tkachenko
留学期間:2010年6月1日 ~ 2010年7月30日
留学資金源:JST戦略的国際科学技術協力推進事業 日本-フィンランド研究交流
2010年の6月から二ヶ月間、フィンランド・タンペレ市にあるタンペレ工科大学に留学し、日本で合成した化合物の時間分解分光測定を行ってきました。
フィンランドではNOKIAやLinuxに代表されるように、電子・情報分野に力を入れている反面、化学のような基礎学問分野は日本ほど活発ではない印象を受けました。実際、フィンランド国内の理科系大学としてはヘルシンキ工科大学に次ぐ二番目の規模であるタンペレ工科大学においても、純粋な化学系研究室は2~3しかありませんでした。しかしながら、私がお世話になったLemmetyinen教授・Tkachenko教授の研究室では、大変優秀な研究スタッフに加え、フェムト秒からミリ秒領域までの多彩な時間分解分光装置が揃っており、研究環境は非常に充実していました。レーザー分光装置の取り扱いは初めてでしたが、Tkachenko教授をはじめとしたスタッフ陣に懇切丁寧に指導して頂き、満足の行く測定を行うことができました。
滞在期間中に最も印象に残ったことは、フィンランド人学生の時間の使い方です。朝8時過ぎに実験を開始し、昼食・ティータイムを挟んだ後、午後5時頃には皆帰ってしまいます。帰って何をしているのか聞いたところ、家族(子供がいる学生も複数)と過ごす、友達と遊ぶ、教会に行く、などの答えが返ってきました。日本では夜遅くまで残って実験するのが半ば習慣となっていたので、夕方には教員を含めて皆帰ってしまうのには少々面食らいました。といっても、学生はサボっているわけではなく、てきぱきと実験をこなし、優れた成果を幾つか挙げていました。日本とフィンランドのどちらの生活スタイルが良いのかは一概には言えませんが、フィンランド人は効率的に仕事をこなし、また、人生を最大限楽しんでいるという印象を受けました。
また、フィンランドは食事が大変美味しかったです。外食すると少々高くつくのですが、学食はかなり安く、それでいて質・量ともに京大の学食を遥かに凌駕していると感じました。さらに、地元のビールが大変美味しく、休日はもちろん、学校帰りにもよくパブに寄ってビールを飲んでいました。ワールドカップの期間中であったこともあり、ビールを片手にパブの大画面でサッカー観戦するのは最高のひとときでした。缶ビールの種類も豊富で、色々と飲み比べて自分好みの味を探すのも楽しかったです。また、滞在が夏期であったため日がとても長く、午後10時を過ぎても昼のように明るいのは不思議な感じでした。夏至の時期は白夜に近い状態で、夜なかなか寝付けなかった記憶があります。
留学前に購入した海外通話用携帯電話を行きの飛行機の中で紛失したり、下宿するアパートの鍵が間違っていて到着初日に入れなかったりと、留学当初はトラブルの連続でしたが、研究室メンバーの親切なお世話もあり、全体としてはとても楽しく過ごすことができました。また、様々なトラブルに遭遇したおかげで、少々のことでは動じない図太さも養われたと思います。二ヶ月という短い滞在でしたが、非常に充実した日々を送ることができました。是非もう一度訪れてみたいです。
林 宏暢(平成22年度D2)
留学先:ノートルダム大学、アメリカ・サウスベンド
教授名:Prashant V. Kamat
留学期間:2009年9月1日 〜 2009年11月21日
留学資金源:京都大学グローバルCOEプログラム
2009年9月から約三ヶ月間、アメリカ・サウスベンドにあるノートルダム大学に留学し、グラフェンを用いた光電変換デバイスの作製を行ってきました。
Kamat教授は、ナノ炭素材料や酸化物半導体ナノ粒子などのナノ構造半導体、および、それら複合体中での電子移動過程の研究における世界的権威です。グループの規模は10〜15名程度で、アメリカ国内からだけでなく世界各国から研究者が訪れているため、国際色豊かな研究室になっています。留学当時のKamat研究室では、グラフェンを扱ったテーマが非常にアクティブに研究されていました。私は、そのグラフェンの取り扱いを習得し、光電変換デバイスへ応用することを目的に留学しましたが、日本でグラフェンを扱った経験が全くありませんでした。しかしながら、Kamat教授をはじめ研究室のメンバーが丁寧に指導してくださり、スムーズに実験を進めることができました。また、研究設備も充実しており、Kamat研究室のメイン装置である過渡吸収測定装置などの他にも、TEMなどの電子顕微鏡類もほぼ自由に使うことができ、非常に助かりました。
研究生活において最も印象に残っていることは、ディスカッションの多さです。学生は新たな実験・測定を行うと、すぐにデータをまとめてKamat教授のところに持って行き、ディスカッションを行います。学生はディスカッションでのアドバイスやアイデアをもとに、次の実験に進みます。このサイクルが、一日の中で何度も何度も繰り返されていました。これに加え、水曜日と金曜日にグループ全体のディスカッションがあり、実験結果に対して活発に議論していました。また、Kamat教授も、たいへん忙しい身でありながら、頻繁に実験室を訪れてアドバイスしたり、時には楽しそうに実験を手伝っていました。このようにKamat研究室では、頻繁にディスカッションを行うことで実験を最小限に留め、非常に効率良く研究を推進している印象を受けました。この経験は、現在研究を行う上で大いに役に立っています。(Kamat教授のホームページで、効率良い研究の進め方に関するパワーポイントを見ることができます。)
一方、アメリカの学生はオン・オフの切り替えがしっかりできており、個人の時間を非常に大切にしている印象を受けました。学生は、昼間は効率的に実験を進めることに集中していますが、18時頃にはほとんどの人が帰宅していました。さらに、Kamat教授も私たち学生に対して、「土日はできるだけ実験をするな。旅行に行くかアメフトの応援に行くように。」と言っておられました。実際学生は、土日は家族と過ごしたり旅行に出かけたりと、個人の時間を思う存分楽しんでいました。また、ノートルダム大学はスポーツの名門校としても全米屈指の知名度を有しています。中でもアメフトチーム「ファイティングアイリッシュ」は、大学チームで全米1位の人気を誇っています。隔週で土曜日にノートルダム大学で試合が行われるのですが、大学が有する4万人を収容できるスタジアムはいつも満席で、試合の日は学校内も道路も観客で埋め尽くされていました。学生はみんな試合を非常に楽しみにしており、月曜日のコーヒータイムになると、話題はアメフトの試合結果の話で持ち切りになっていたことが、とても記憶に残っています。
研究室メンバーの助けもあって、留学先での生活は不自由なく送ることができました。例えば、サウスベンドは車がないと買い物にも行けないほど田舎でしたが、毎週研究室のメンバーが車で買い出しに連れて行ってくれました。食事に誘ってくれたり、時にはみんなでキャンパス内の池を散歩したりと、研究室のメンバーにはいろいろ親切かつフレンドリーに接していただき、とても感謝しています。そのおかげで、慣れない海外生活をとても充実したものにすることができました。また、巨大ハンバーガーや1ガロンのコカコーラペットボトルなどのジャンクフードにも負けず、体重を維持できたことには本当にほっとしています。短い滞在ではありましたが、貴重な体験をたくさんさせていただき、とても楽しかったです。