Publications
2023年(抜粋)
Energy level tuning of push-pull porphyrin sensitizer by trifluoromethyl group for dye-sensitized solar cells
Higashino, T.; Sugiura, K.; Namikawa, K.; Imahori, H.
J. Porphyrins Phthalocyanines 2023, 27, 145–156. DOI: 10.1142/S1088424622500778
色素増感太陽電池において、光励起された色素から酸化チタンへの電子注入過程が高効率で起こるために必要な自由エネルギー差は0.3 eV以上とされている。十分な自由エネルギー差を確保できれば電子注入過程の効率は向上するが、差を大きくするほど光エネルギーの損失も大きくなるというジレンマが存在する。そこで本研究では、トリフルオロメチル基をもつポルフィリン色素を設計・合成することで、電子注入過程における自由エネルギー差を過不足無く0.3 eVとし、エネルギー損失を低減することに成功した。トリフルオロメチル基の低い溶解性改善や、よりかさ高い置換基を導入することによってさらなる光エネルギー変換効率の向上が期待できる。
2022年(抜粋)
Rational Synthesis of Benzoheterole-fused Porphyrins and π-System Switching by Central Metal Ion
Higashino, T.; Iizumi, R.; Imahori, H.
Chem. Lett. 2022, 51, 932–935. DOI: 10.1246/cl.220277
ポルフィリンにπ共役分子を縮環させた縮環ポルフィリン類の中でも、近年では窒素や硫黄、リンといった典型元素をポルフィリンの周辺部へ組み込むことにより典型元素の構造的・電子的特徴に由来する新たな特性の発現が可能である。実際に我々はヘテロール骨格をポルフィリン周辺部に縮環させることにより、典型元素の特徴を活用してポルフィリンの性質を様々に変調可能であることを明らかにしてきた。本研究では、ベンゾチオフェン縮環およびインドール縮環ポルフィリンを合成するための汎用的な手法を新規に開発し、ヘテロール縮環構造導入によりπ共役系が効果的に拡張できることを見出した。さらに、インドール縮環ポルフィリンにおいて、中心金属の価数によって共役系の寄与をスイッチングできることを明らかにした。
2021年(抜粋)
Synthesis of thiophene-fused porphyrin dimers as effective π-extended helical chromophores
Nishimura, I.; Higashino, T.; Imahori, H.
Chem. Commun. 2021, 57, 9606-9609. DOI: 10.1039/D1CC04215G
縮環ポルフィリン多量体は、ポルフィリン同士の共平面化により分子全体にπ共役系を拡張することで電子構造が大きく変調し、近赤外領域にまで達する吸収スペクトルの長波長化や多段階の酸化・還元挙動を示すことから特に注目されている。一方、螺旋構造や湾曲構造を有する曲面π共役分子は平面π共役分子とは異なり、高い溶解性やキロプティカル特性を示すことから、様々な曲面π共役分子の開発が盛んに行われている。本研究では、縮環ポルフィリン多量体に曲面構造を導入した、螺旋状チオフェン縮環ポルフィリン二量体を合成することに成功した。得られたポルフィリン二量体は近赤外領域にまで達する吸収を示し、2つのポルフィリンに共役系が効果的に広がっていることを明らかにした。さらに、ポルフィリン中心に導入する金属によってラセミ反転障壁が変化することを見出した。
Thiophene‐Fused Naphthodiphospholes: Modulation of the Structural and Electronic Properties of Polycyclic Aromatics by Precise Fusion of Heteroles
Ishida, K.; Higashino, T.; Wada, Y.; Kaji, H.; Saeki, A.; Imahori, H.
Chempluschem 2021, 86, 130–136. DOI: 10.1002/cplu.202000800
多環芳香族炭化水素の多くは剛直な平面構造や分子間π–π相互作用に起因して発光特性や電荷輸送特性など魅力的な性質を発現する。近年では窒素や硫黄、リンといった典型元素を導入することで高機能化、あるいはこれまでにない機能の発現を目指した研究も活発に行われているが、典型元素をどの位置に、どのように導入するかで分子特性は大きく変化する。そこで本研究ではホスホール骨格の縮環様式を考慮することによって、チオフェン縮環ナフトジホスホールの物性を制御することを試みた。その結果、1,2/5,6位で縮環させた場合には強い蛍光発光を示した一方で、2,3/6,7位で縮環させた場合には蛍光が弱いことに加え、低温条件で燐光が観測された。この原因について量子化学計算を行い、縮環位置の違いがスピン-軌道相互作用に影響を与えることを突き止めた。さらに結晶構造解析によりtrans体がスリップπ積層構造を形成するのに対し、cis体がヘリンボーン構造やカラム積層構造を形成することを見出し、リン原子上の置換基の向きによって固体状態での分子配列を制御可能であることを見出した。
2020年(抜粋)
Noncovalent Functionalization of Few-Layered Antimonene with Fullerene Clusters and Photoinduced Charge Separation in the Composite
Umeyama, T.; Ohara, T.; Tsutsui, Y.; Nakano, S.; Seki, S.; Imahori, H.
Chem. Eur. J. 2020, 26, 6726-6735. DOI: 10.1002/chem.202001740(Hot Paperに選ばれました!)
アンチモンは、アンチモン原子からなるシートが積層した構造をとっており、これを剥離したものはアンチモネンと呼ばれる。アンチモネンは、層数により制御可能なバンドギャップや高い電荷移動度を示す。その上、空気中で高い安定性を有する二次元半導体材料として最近注目を集めている。本研究では、溶媒極性変化を利用した手法により、アンチモネンとフラーレンを複合化することに成功した。マイクロ波伝導度測定から、複合化により光誘起電荷分離が促進されることがわかった。そのため、それぞれの単成分膜と比較して、複合膜では光電流発生効率の向上が見られた。
Efficient Light-harvesting, Energy Migration, and Charge Transfer by Nanographene-Based Nonfullerene Acceptor Small-Molecule Exhibiting Unusually Long Excited-state Lifetime in Film State
Umeyama, T.; Igarashi, K.; Sasada, D.; Tamai, Y.; Ishida, K.; Koganezawa, T.; Ohtani, S.; Tanaka, K.; Ohkita, H.; Imahori, H.
Chem. Sci. 2020, 11, 3250-3257. DOI: 10.1039/c9sc06456g(日刊工業新聞2020年3月6日29面、日経産業新聞2020年3月11日9面、ITmedia スマートジャパンで紹介されました!)
有機薄膜太陽電池は、有害性材料を用いず、作製が簡便であると同時に高いエネルギー変換効率を達成できることから注目を集めている。本研究では、ベンゼン環やピリジン環が二次元平面状につながった構造を組み込んだ電子受容性材料TACICを設計・合成した。TACIC膜は、典型的な電子受容性材料であるITIC膜と同程度の小さなバンドギャップを有するにも関わらず、励起状態の寿命は50倍以上長くなった。つまり、TACIC膜では小さなバンドギャップと長い励起状態寿命の両立が達成された。TACICを用いた有機薄膜太陽電池は9.92%のエネルギー変換効率を示し、この値は我々の研究グループがITICを用いて作製した有機薄膜太陽電池でのエネルギー変換効率(9.71%)に比べて、わずかながら向上した。発電層の膜構造を詳細に調べると、TACICと電子供与性材料との混合具合は、ITICと電子供与性材料との混合に比べて細かくないことがわかった。にも関わらず、TACICの励起状態が長く続くため、電荷の発生効率は両者でほぼ同程度であった。
Unique Role of Heterole-fused Structures in Aromaticity and Physicochemical Properties of 7,8-Dehydropurpurins
Higashino, T.; Nishimura, I.; Imahori, H.
Chem. Eur. J. 2020, 26, 12043–12049. DOI: 10.1002/chem.202001361(Hot Paperに選ばれました!)
芳香族性は、環状π共役分子の性質を理解する上で非常に重要な概念である。実際に、ポルフィリンの性質は強い18π芳香族性の影響を受けているため、ポルフィリンの芳香族性をコントロールすることによって、ポルフィリンの物性を様々に変化させることが可能である。特に、縮環ポルフィリンの一種である7,8-デヒドロパープリンでは、強い反芳香族性の寄与が存在するためにポルフィリン全体での芳香族性が顕著に低下するため、近赤外領域に達する光吸収特性を示す。一方、典型元素を含む環状π共役分子であるヘテロールは、典型元素の種類・酸化状態によってその性質を変化させることが可能である。そこで本研究では、7,8-デヒドロパープリン周辺部に導入したヘテロール縮環構造を活用し、典型元素の種類・典型元素の酸化状態を制御することで、反芳香族性の寄与を調節してポルフィリン全体としての芳香族性をコントロールし、ポルフィリンの物性制御が可能であることを実証した。
2019年(抜粋)
Exclusive Occurrence of Photoinduced Energy Transfer and Switching Its Direction by Rectangular π-Extension of Nanographenes
Umeyama, T.; Hanaoka, T.; Yamada, H.; Namura, Y.; Mizuno, S.; Ohara, T.; Baek, J.; Park, J.; Takano, Y.; Stranius, K.; Tkachenko, N. V.; Imahori, H.
Chem. Sci. 2019, 10, 6642-6650. DOI: 10.1039/C9SC01538H
ナノグラフェンは、大きさが1 nm以下のsp2混成炭素からなる構造の明確な化合物であり、その拡張したπ共役系に由来する特異な光学的・電子的物性を示すことから、現在活発に研究が行われている。ナノグラフェンへの光機能性分子の共有結合修飾は、ナノグラフェンコアの骨格を保ちつつ光機能化を可能にする。本研究では、ヘキサ-peri-ヘキサベンゾコロネン(HBC)とそれを長方形型にπ拡張した短いナノグラフェン(GNR)に対して、フェニレンスペーサーを介してポルフィリンを連結したZnP-HBCおよびZnP-GNRを合成した。その光物性を詳細に調べたところ、ZnP-HBCではHBCからポルフィリンへ、ZnP-GNRではポルフィリンからGNRへのエネルギー移動が効率よく起こり、ナノグラフェンのサイズによりエネルギー移動の方向が転換させられることがわかった。
Isomer Effects of Fullerene Derivatives on Organic Photovoltaics and Perovskite Solar Cells
Umeyama, T.; Imahori, H.
Acc. Chem. Res. 2019, 52, 2046-2055. DOI: 10.1021/acs.accounts.9b00159
有機薄膜太陽電池の電子アクセプター材料や、ペロブスカイト太陽電池の電子輸送材料として、フラーレン誘導体が広く用いられている。しかしながら、[60]フラーレン多付加体や高次フラーレンの一付加体は、異性体の混合物として合成されるため、注意が必要である。本総説は、我々の行なった研究を中心に、フラーレン誘導体の異性体分離効果が太陽電池性能に与える影響を概説したものである。
Phosphole-Fused Dehydropurpurins via Titanium-Mediated [2+2+1] Cyclization Strategy
Higashino, T.; Nishimura, I.; Imahori, H.
Chem. Eur. J. 2019, 25, 13816–13823. DOI: 10.1002/chem.201903269
ポルフィリンの周辺部に5員環が縮環したデヒドロパープリンは、通常のポルフィリンとは大きく異なる性質をもつが、その報告例は未だ少ない。一方で、我々はチタン反応剤を用いた[2+2+1]付加環化反応によりホスホール縮環デヒドロパープリンを良好な収率で得ることに成功し、得られた分子の物性はリン原子の酸化状態を変えることによりコントロールできることを見出した。本手法は新たなヘテロール縮環ポルフィリン類の開発にも繋がると期待される。
Renaissance of Fused Porphyrins: Substituted Methylene-Bridged Thiophene-Fused Strategy for High-Performance Dye-Sensitized Solar Cells
Kurumisawa, Y.; Higashino, T.; Nimura, S.; Tsuji Y.; Iiyama, H.; Imahori, H.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 9910–9919. DOI: 10.1021/jacs.9b03302
これまで、ドナー・アクセプター構造をもつポルフィリン色素を用いた色素増感太陽電池のエネルギー変換効率が10%を超えている一方で、縮環ポルフィリン色素はエネルギー変換効率が低く、あまり注目されてこなかった。しかし今回、適切な分子設計を行うことにより、世界で初めて縮環ポルフィリン色素で10%を超えるエネルギー変換効率を達成することに成功した。この結果は、縮環ポルフィリン色素に再びスポットライトを当て、色素増感太陽電池の新たな分子設計指針を与えたと言える。
“Pluripotent Features of Doubly Thiophene-fused Benzodiphospholes as Organic Functional Materials”
Higashino, T.; Ishida, K.; Sakurai, T.; Seki, S.; Konishi, T.; Kamada, K.; Imahori, H.
Chem. Eur. J. 2019, 25, 6425–6438. DOI: 10.1002/chem.201900661
チオフェン縮環ベンゾジホスホール分子の合成法を開発し、ホスホールとチオフェンの両方の性質を兼ね備えていることを見出した。特に、適切な置換基を導入することによって強い近赤外蛍光や大きな二光子吸収断面積を実現でき、さらには電子輸送に適した材料として有望であることを明らかにした。これはホスホールとチオフェンの両方の性質をうまく組み合わせることで実現できた特性であり、チオフェン縮環ベンゾジホスホールは多方面への応用が可能な魅力的な分子であるといえる。
2018年(抜粋)
Formation and Photodynamic Behavior of Transition Metal Dichalcogenide Nanosheet–Fullerene Inorganic/Organic Nanohybrids on Semiconducting Electrodes
Baek, J.; Umeyama, T.; Choi, W.; Tsutsui, Y.; Yamada, H.; Seki, S.; Imahori, H.
Chem. Eur. J. 2018, 24, 1561-1572. DOI: 10.1002/chem.201703699(Hot paper, Back cover pictureに選ばれました!)
MoS2およびWS2といった遷移金属ジカルコゲニド(Transition Metal Dichalcogenide, TMD)とフラーレンC60のバルクヘテロ接合型複合薄膜を、混合溶液への貧溶媒注入と泳動電着により、半導体酸化スズ電極上に作製することに成功した。マイクロ波伝導度測定から、複合膜化により光誘起電荷分離が促進され、電荷再結合が抑制されることがわかった。そのため、それぞれの単成分膜と比較して、複合膜では光電流発生効率の向上が見られた。
Electron Transfer and Exciplex Chemistry of Functionalized Nanocarbons: Effects of Electronic Coupling and Donor Dimerization
Umeyama, T.; Imahori, H.
Nanoscale Horiz. 2018, 3, 352-366. DOI: 10.1039/c8nh00024g(Review)
光誘起電荷分離および電荷再結合は、光電変換素子等の物理的挙動を理解するための最も基礎的な過程と言える。本総説では、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなどのナノ炭素材料を電子アクセプターとして用いたドナー-架橋子-アクセプター連結系の、構造と光物性の相関を、電子カップリングやドナーの二量化が与える影響に着目しつつ論じている。
Reversible π-system switching of thiophene-fused thiahexaphyrins by solvent and oxidation/reduction
Higashino, T.; Kumagai, A.; Sakaki, S.; Imahori, H.
Chem. Sci. 2018, 9, 7528–7539. DOI: 10.1039/C8SC02448K
環拡張ポルフィリンの1つであるヘキサフィリンは、平面構造とメビウスの帯のようなねじれ構造の2つの構造を取ることが知られている。本研究では、チオフェン環が縮環したチアヘキサフィリンを合成し、非極性溶媒中ではねじれ構造(メビウストポロジー)での交差共役系、極性溶媒中では平面構造(ヒュッケルトポロジー)での環状共役系の寄与が支配的であることを明らかにした。すなわち、構造変化によって、チアヘキサフィリンがとる共役系のスイッチングが可能であることを実証した。
2017年(抜粋)
Occurrence of Photoinduced Charge Separation by the Modulation of the Electronic Coupling between Pyrene Dimers and Chemically Converted Graphenes
Umeyama, T.; Baek, J.; Mihara, J.; Tkachenko, N. V.; Imahori, H.
Chem. Commun. 2017, 53, 1025-1028. DOI: 10.1039/c6cc07985g(Cover pictureに選ばれました!)
グラフェンに対して、ピレン二量体および単量体を選択的に連結し、ピレン会合構造が連結系の光物性に与える影響の評価を行った。グラフェン上のピレン二量体は、エキシプレックス状態を経て数ナノ秒以上の寿命を有する電荷分離状態を生成するのに対し、グラフェン上のピレン単量体では、エキシプレックス状態のみを生成する。AFM等による構造解析から、ピレン単量体-グラフェン連結系と比較して、ピレン二量体-グラフェン連結系ではドナー−アクセプター間の電子カップリングが小さくなることで、エキシプレックス状態から電荷分離状態への変換が可能となることが示唆された。
Regioisomer Effects of [70]Fullerene Mono-adduct Acceptors in Bulk Heterojunction Polymer Solar Cells
Umeyama, T.; Miyata, T.; Jakowetz, A. C.; Shibata, S.; Kurotobi, K.; Higashino, T.; Koganezawa, T.; Tsujimoto, M.; Gelinas, S.; Matsuda, W.; Seki, S.; Friend, R. H.; Imahori, H.
Chem. Sci. 2017, 8, 181–188. DOI:10.1039/C6SC02950G (Open access)
フラーレン誘導体 [6,6]-phenyl-C71-butyric acid methyl ester([70]PCBM)は、高い変換効率を実現できるため、有機薄膜太陽電池の電子アクセプター材料として広く活用されている。本研究では、[70]PCBMが複数の異性体の混合物であることに着目し、その位置異性体を分離した上で共役系高分子PCDTBTと複合薄膜化することで、太陽電池性能が向上することを初めて見出した。
Thiophene-fused dithiaoctaphyrins: π-system switching between cross-conjugated and macrocyclic π-networks
Higashino, T.; Kumagai, A.; Imahori, H.
Chem. Commun. 2017, 53, 5091–5094. DOI:10.1039/C7CC01273J (Inside Front Coverに選ばれました!)
5つ以上のピロールユニットからなる環拡張ポルフィリンは、その分子が持つ共役系が変化するとその性質も大きく変化する。本研究では、ジチエノ[3,4-b:3′,4′-d]チオフェン骨格を導入したオクタフィリンを合成した。ジチエノチオフェン骨格は2通りの共役系を取ることができ、実際に硫黄原子を酸化することによって環状36π共役系から交差共役系へと変換可能であることを明らかにした。
2016年(抜粋)
Remarkable Dependence of Exciplex Decay Rate on Through-Space Separation Distance between Porphyrin and Chemically Converted Graphene
Umeyama, T.; Hanaoka, T.; Baek, J.; Higashino, T.; Abou-Chahine, F.; Tkachenko, N. V.; Imahori, H.
J. Phys. Chem. C 2016, 120, 28337–28344. DOI:10.1021/acs.jpcc.6b10325
光誘起電荷分離およびエキシプレックスのモデル系として、電子供与性のポルフィリンとグラフェンの連結系を構築し、ドナー−アクセプター間の電子的相互作用(電子カップリング)が光物性に与える影響について詳細に検討を行った。つまり、架橋子として直線状で堅固なオリゴ(p-フェニレン)(モノマーからペンタマー)を用い、その架橋子長を精密に制御した。すると架橋子長に関わらず、ポルフィリン-グラフェン連結系では光励起によりエキシプレックスが形成され、電荷分離状態を生じることなく基底状態に急速に失活することがわかった。AFM等による構造解析から、ポルフィリン-グラフェン間で生じたエキシプレックス状態の基底状態への失活は、結合を介してではなく、空間を介して起こっていることが示された。
Optical Control of Neuronal Firing via Photoinduced Electron Transfer in Donor–Acceptor Conjugatesy
Y. Takano, T. Numata, K. Fujishima, K. Miyake, K. Nakao, W. D. Grove, R. Inoue, M. Kengaku, S. Sakaki, Y. Mori, T. Murakami, and H. Imahori, Chem. Sci. 2016, 7, 3331–3337 (Open Access).
光をトリガーに用いた細胞機能コントロールは、ミリ秒以下の時間オーダー、マイクロメートル以下の空間スケールでの精密な制御が可能である。しかし、一般的な化合物に光を照射すると、分子間エネルギー移動によって細胞毒性を持つ一重項酸素を作り出してしまう。本研究では、光照射時に一重項酸素発生状態(=三重項励起状態)と競合する「分子内電荷分離状態」を細胞環境下で効率的に発生させる分子を開発した。本手法により、既存とは異なるアプローチによる細胞膜電位の光制御が可能となり、神経細胞においてシグナル伝達に重要な「神経発火」を引き起こせることを見いだした。今後、 本分子設計をベースとすることにより、電荷分離状態を利用した、細胞膜電位だけでなく種々の細胞機能を光により調整・制御する手法の開発が可能になると考えられる。
Fusing Porphyrins and Phospholes: Synthesis and Analysis of a Phosphorus-Containing Porphyrin
Higashino, T.; Yamada, T.; Sakurai, T.; Seki, S.; Imahori, H.
Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 12311–12315. DOI:10.1002/anie.201607417 (Hot paperに選ばれました!)
リン原子を含むπ共役分子であるホスホールが縮環したポルフィリンダイマーを世界で初めて合成した。この分子は2つのポルフィリン全体に共役系が良好に広がっているだけでなく、高い電子受容性を示すことも明らかにした。これらの性質はポルフィリンとホスホールを組み合わせたことによって初めて現れたものであり、新たなポルフィリン誘導体の開発に繋がるものと期待される。
2015年(抜粋)
Molecular Interactions on Single-Walled Carbon Nanotubes Revealed by High-Resolution Transmission Microscopy
Umeyama, T.; Baek, J.; Sato, Y.; Suenaga, K.; Abou-Chahine, F.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H.; Imahori, H.
Nat. Commun. 2015, 6, 7732 (Open Access). DOI: 10.1038/ncomms8732
京都大学ウェブサイト、 アイセムスウェブサイト、日刊工業新聞、Science Daily、Science News Line、
Phys Org、Demanjo、ECN、Azo Nano、Chemeurope.com に取り上げられました!
一般に個々の有機分子の特性は、その分子が有する化学構造により決定されるが、薄膜中など分子が会合した状態での性質は、隣り合う分子同士がどのように相互作用しているかによっても大きく影響される。しかしながら、有機分子の会合体の構造を簡便に知るための手法はこれまで無かった。本研究では、分子会合体の最小単位である二分子会合体の分子間相互作用を明らかにするために、原子レベルでその会合構造を決定し、有機分子の会合構造を初めて可視化した。通常、有機トランジスタや有機発光ダイオード、有機太陽電池などの有機デバイスにおいては、有機半導体性分子材料が薄膜状態で用いられるが、本研究で開発された手法を活用することで、分子会合構造の新たな設計指針が得られ、デバイス性能の向上が実現できると期待される。
Polymer-Assisted Construction of Mesoporous TiO2 Layers for Improving Perovskite Solar Cell Performance
Yue, Y.; Umeyama, T.; Kohara, Y.; Kashio, H.; Itoh, M.; Ito, S.; Sivaniah, E.; Imahori, H.
J. Phys. Chem. C 2015, 119, 22847–22854. DOI: 10.1021/acs.jpcc.5b07950
制御された孔構造を有する多孔質酸化チタンは、太陽電池、光触媒、リチウムバッテリー、ガスセンサーなどの素子材料として近年大きな注目を集めている。本研究では、ホモポリマーであるポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)を添加した溶液のスピンコートによるゾル-ゲル法により、数十nmの粒子がつながった構造を有する多孔質酸化チタン薄膜を得ることに成功した。また、得られた多孔質酸化チタン膜を用いたペロブスカイト型太陽電池では、エネルギー変換効率が最大で14%程度となり、一般に用いられる酸化チタンナノ粒子ペーストを用いた系(13%程度)と比較して再現性よく向上することを見出した。
Single cis-2 Regioisomer of Ethylene-Tethered Indene Dimer–Fullerene Adduct as an Electron-Acceptor in Polymer Solar Cells
Tao, R.; Umeyama, T.; Higashino, T.; Koganezawa, T.; Imahori, H.
Chem. Commun. 2015, 51, 8233–8236. DOI: 10.1039/C5CC01712B
Inside front coverに掲載されました!
エチレンスペーサーで連結したインデン二量体をフラーレンと反応させることにより、二つのインデンがcis-2の位置に付加したcis-2-BIECを高選択的に得た。HPLCにより精製したcis-2-BIECをアクセプター、ポリチオフェン(P3HT)をドナーとして用いた有機薄膜太陽電池では、変換効率が2.8%となり、同条件下で作製したP3HT:PCBMの素子よりも性能の向上が見られた。
2014年(抜粋)
Effects of Alkyl Chain Length and Substituent Pattern of Fullerene Bis-Adducts on Film Structures and Photovoltaic Properties of Bulk Heterojunction Solar Cells
Tao, R.; Umeyama, T.; Kurotobi, K.; Imahori, H.
ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 17313–17322. DOI: 10.1021/am5058794
有機薄膜太陽電池の電子アクセプター材料としてフラーレン誘導体が広く用いられている。フラーレン二付加体は一付加体と比較して高いLUMO準位を有するため、高い開放電圧(Voc)を達成できる。以前の研究で我々は、ジヒドロナフチル二付加体を合成し、各位置異性体の違いがエネルギー変換効率に大きな影響を与えることを明らかにした。本研究では、位置異性効果とともに、ジヒドロナフチルに置換したアルコキシカルボニル基のアルキル鎖長が、太陽電池性能に与える影響を系統的に調べた。
Design and Control of Organic Semiconductors and Their Nanostructures for Polymer-Fullerene-Based Photovoltaic Devices
Umeyama, T.; Imahori, H.
J. Mater. Chem. A 2014, 2, 11545–11560 (Feature Article). DOI: 10.1039/c3ta15387h
有機薄膜太陽電池の電子ドナー材料として、小さなバンドギャップを有する共役系高分子が広く用いられている。本総説では、1)キノイド共鳴構造を安定化するユニット、2)基底状態でキノイド構造を有するユニット、3)ホスホールなどのヘテロ原子を利用したユニット、4)ポルフィリンなどの色素構造ユニット、4)フッ素置換基を有するユニット を主鎖に組み込んだ低バンドギャップ高分子に対し、設計指針・合成・太陽電池性能などについて、我々の研究を中心にまとめた。また、フラーレン二付加体の位置異性体分離効果や、ナノサイズの構造を有するデバイスについても紹介している。
2013年(抜粋)
Photofunctional Hybrid Nanocarbon Materials
Umeyama, T.; Imahori, H.
J. Phys. Chem. C 2013, 117, 3195−3209 (Feature Article). DOI: 10.1021/jp309149s
Cover Pictureに選ばれました!
人工光合成や太陽光エネルギー変換素子に用いる有力な材料として、0次元・1次元・2次元のナノ構造を有する炭素同素体であるフラーレン・単層カーボンナノチューブ(SWNT)・グラフェンと、電子供与性の共役系化合物との複合体が注目されている。本総説では、フラーレン・SWNT・グラフェンとポルフィリンとを共有結合で連結した複合材料の基礎的物性に着目して概説した。とりわけ、ポルフィリンとナノカーボンとをつなぐ架橋子の構造により、基底状態および励起状態での両者の相互作用が大きく影響を受けることについて、筆者らの研究を中心にまとめた。
Incorporation of Graphene to Fullerene Clusters and Fullerene-Nanotube Composites and Their Photoelectrochemical Properties
Umeyama, T.; Baek, J.; Tezuka, N.; Morita, K.; Imahori, H.
ECS J. Solid State Sci. Technol. 2013, 2, M3001−M3007. DOI: 10.1149/2.001310jss
グラフェンは極めて高い電子移動度を示すなど、優れた電子的性質を有することから、光電変換素子等への機能性材料としての応用が期待されている。またグラフェンは特異な単原子二次元構造を有しており、その平面上に他の機能性材料を集積することで新規複合材料を形成できる。本研究では貧溶媒注入法により、フラーレン-グラフェンおよびフラーレン−ナノチューブ−グラフェンの二元および三元ナノカーボン複合体を作製し、その光電気化学特性評価を行った。二元系では、フラーレンクラスターとグラフェンの相互作用により、電極への電子輸送の効率が向上したため光電流発生効率が向上した。一方三元系では、グラフェンが複合膜中でナノチューブ-フラーレン複合体による多孔性ネットワーク構造の形成を阻害するため、光電流発生効率が低下した。
Synthesis of 2-Alkenyl- and 2-Alkynyl-benzo[b]phospholes by Using Palladium-Catalyzed Cross Coupling Reactions
Matano, Y.; Hayashi, Y.; Suda, K.; Kimura, Y.; Imahori, H.
Org. Lett. 2013, 15, 4458–4461. DOI: 10.1021/ol401994e
π共役ベンゾ[b]ホスホール誘導体は近年、機能性材料の母核として注目を集めており、その効率的な合成法の開発が重要な課題となっている。本研究では、まず2-ブロモベンゾ[b]ホスホールのHeck反応、Stille反応、薗頭反応を用いてホスホール環のα位にアルケニル基やアルキニル基を導入する一般的な合成法を確立した。また、合成したπ共役ホスホール誘導体の構造、光物性、および電気化学特性を系統的に調べた結果、末端への電子供与性置換基の導入により、π系全体が励起状態において高いCharge-Transfer性を示すことを明らかにした。さらに、Stille反応に適用できる新しい出発原料として、2-(トリブチルスタンニル)ベンゾ[b]ホスホールを合成し、有用性を示した。
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