有機合成を駆使して、ヘテロナノグラフェン系化合物などの構造・物性の両面において魅力的なπ電子系化合物の創出に挑戦しています。得られた化合物は、X線構造解析による詳細な構造同定と光物性・電子物性測定によってキャラクタライズし、その分子のユニークな性質を明らかにしています。
ナノグラフェンは、グラフェンの部分構造を切り出した分子性炭化水素ですが、合成法を工夫することで窒素やホウ素といった典型元素を組み込んだり、五員環・七員環・八員環といった非ベンゼン骨格を構築することができます。 このようなヘテロナノグラフェン化合物は、導入された元素特有のレドックス特性や光物性、水素結合などの超分子ネットワーク形成など、従来のナノグラフェン類では見られない特徴的な性質を示します。 また、お椀型や鞍型といった非平面構造が誘起されることで溶液中で動的構造変化を起こしたり、単なるπ平面の積層以外の新たな集合体形成の可能性が現れます。近年、テトラアザ[8]サーキュレンと呼ばれる含窒素平面ナノグラフェン分子が、置換基による被覆なしでも有機溶媒に溶解する珍しい化合物であることがわかり、高い発光量子収率や酸化による安定ラジカルカチオン種の生成など、興味深い性質を見出しました。また、用いた合成法の応用により鞍型構造で中央に十員環を含むのペンタアザ[10]サーキュレンや、世界最長クラスのアザ[19]ヘリセンといった化合物の創出にも成功しています。
私は学生時代からポルフィリノイド化学に精通し、縮合多環型ポルフィリノイドの合成化学を確立しました。ポルフィリンおよびその類縁体は平面構造を有する芳香族化合物です。 それらを複数個共平面的に直接縮合させたポルフィリンテープは近赤外〜赤外領域にまで光吸収帯がシフトすることから多くの注目を浴びてきました。 近年、環縮小ポルフィリノイドの代表格であるコロールという芳香族化合物を用いて、コロールテープの合成を達成しました。この化合物は、ポルフィリンテープとは異なるレドックス特性を示すことがわかりました。 このような縮合多環型ポルフィリノイドの研究も、広い意味ではヘテロナノグラフェン系化合物の研究としてアイデアの礎となっています。
一方で、鎖状のオリゴピロールの末端をアミノ化することで、自発的に二重らせん構造を形成する新たな化合物群も発見しました。外部環境変化に応じて敏感に構造変化するため、置換基効果や溶媒効果などを中心に動的構造変化の基礎を調べあげ、超分子化学や二重らせんポリマーへの応用を目指しています。